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環境省による「ゲノム編集技術の利用により得られた生物のカルタヘナ法上の整理および取扱い方針について (案) 」に対する意見募集についての 日本植物細胞分子生物学会からの意見

 「中央環境審議会自然環境部会遺伝子組換え生物等専門委員会」における議論を受け、ゲノム編集技術等検討会において、ゲノム編集技術の利用により得られた生物について「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律 (カルタヘナ法) 」に照らした整理を行ったことについて、日本植物細胞分子生物学会として高く評価致します。その上で、「ゲノム編集技術の利用により得られた生物のカルタヘナ法上の整理および取扱い方針について (案) 」(以下、「本取扱い方針 (案) 」とする)の実効性を高めるためにもいくつかの意見を提出させていただきます。

 日本植物細胞分子生物学会は、従来の組織培養と遺伝子工学を活用した植物バイオテクノロジーはもとより、代謝工学、分子遺伝学、基礎植物生理学、オミクス解析、バイオインフォマティクス、ゲノム科学等幅広い学問分野について、理学、農学、薬学、工学など出身分野の枠を超えた横断的な研究者交流の場として、日本の科学技術の発展に寄与してきました。さらに、近年、ゲノム編集技術の登場により、1980年代の遺伝子組換え技術の登場と同様の衝撃をもって新たな研究領域が開拓されつつあります。ゲノム編集技術の開発、発展、そして社会実装への貢献がますます求められる時代に突入しており、それに向けた研究開発を推進する立場で活動しています。

 今回、環境省が検討会を主催し、各方面からの有識者の議論を経て「本取扱い方針 (案) 」が提案されました。それに対して日本植物細胞分子生物学会として、以下の意見を提出します。

  1. 本取扱い方針 (案) の「ア 得られた生物に細胞外で加工した核酸が含まれない場合」はカルタヘナ法の「遺伝子組換え生物等」に該当しないという判断を、強く支持します。その理由として、外来遺伝子が存在しない場合、カルタヘナ法の第2条第2項及び法律施行規則第2条の「遺伝子組換え生物等」の定義に当たらないと判断されるためです。
  2. 「2 ゲノム編集技術の利用により得られた生物のうち、カルタヘナ法の対象外とされた生物の取扱いについて」において、カルタヘナ法の対象外とされた生物の使用等にあたっては、生物多様性への影響に係る知見の蓄積と状況の把握を図る観点から、当面の間、「使用者」から情報収集する方針を、支持します。理由は使用者においても行政においても適切な安全性確保の上に研究開発を行う必要があること、また、一般国民の不安を解消し理解を得るためにも、使用者及び行政が適切な安全性確保を考慮していることを示すことが重要と考えるからです。
  3. 「2 (1) の【情報提供する項目】」において、(h) 当該生物を使用した場合に生物多様性影響が生ずる可能性に関する考察を求めており、第一種使用等の組換え生物と同様の評価が課せられるようにも読めますが、適切な評価が行われるように希望します。
  4. 2の (2) において、「生物多様性影響が生じる恐れに関して疑義があった場合・・・」とありますが、一方で、「生物多様性影響が生じる恐れがないと判断された場合」に関する手続きが、本取扱い方針に記載されておりません。「影響が生じる恐れがある場合」や「影響が生じる恐れがない場合」がどのような手続きで判断され、使用者に通知され、どのような実施(栽培等)が可能か提示されることを希望します。
  5. 「イ 得られた生物に細胞外で加工した核酸が含まれる場合」の例としてSDN-2とSDN-3が示されておりますが、SDN-2については規制対象になる点について、再検討が必要ではないかと思われます。その理由は、「 (2) ゲノム編集技術の利用方法 イSDN-2」の説明において、「人工ヌクレアーゼを作用させる際に、宿主の標的塩基配列と相同な配列の一部を変異 (1~数塩基の置換、挿入又は欠失) させたDNA断片 (核酸) を宿主細胞内に移入する」とありますが、この説明では宿主と相同な配列を導入するならセルフクローニングにあたり、施行規則第2条第1号 (イ、ロ) から「遺伝子組換え生物等」に該当せず、ゲノム編集技術を用いてもセルフクローニングであるなら「遺伝子組換え生物等」が該当しないと判断されます。

 ゲノム編集技術を用いた研究開発が激化しており、豪州やアルゼンチンなど一部の国で、ゲノム編集生物の取扱い方針が検討されているなか、日本が、いち早くゲノム編集生物のカルタヘナ法上の取扱いの明確化を進めたことは非常に重要であると思います。同時期に厚生労働省においてもゲノム編集食品の取扱いについての検討が開始されております。このように規制の方向が定まることにより、日本の研究所や大学等における基礎的な研究領域だけでなく、一般国民の不安を取り除き、ゲノム編集技術を用いた産業利用を現実的に進めることが可能となることで民間企業の参画を促すことになり、延いては国内産業の振興のみならず、SDGsの達成にも大きく貢献すると思います。

一般社団法人 日本植物細胞分子生物学会 理事会
代表理事(会長) 山川 隆